AIは格差を縮小するのか、再生産するのか
AIが健康格差を再生産するメカニズムを解明する
AIは格差を縮小するのか、再生産するのか
AIが健康格差を再生産するメカニズムを解明する
AIは、私たちが「使っている」と意識しない場面にも組み込まれ、人々が受け取る資源や機会を左右しはじめています。採用選考、職場の管理、行政サービスの割り振り、医療での判断の補助などです。私たちは、AIが健康格差を形成・再生産する仕組みを整理する理論枠組みとして、RTA(再分配・変換・蓄積)フレームワークを提案しています。RTAは、2つのメカニズム(再分配・変換)と、それらを時間とともに増幅する働き(蓄積)から成ります。
再分配(Redistribution):AIは、教育・雇用・所得など、健康を左右する資源と機会の配り方を変えます。同時に、AIそのものも不平等に配られ、それ自体が新たな健康の決定要因となります。質の高いツールへのアクセス、安全に使える環境、批判的に使いこなす力に差があるためです。
変換(Translation):AIは、社会的な立場が健康に結びつく経路を変えます。たとえば、歴史的な不平等を写し取った代理指標にもとづく判断があります。医療費を「必要度」の代わりに用いたアルゴリズムが、黒人患者の必要度を低く見積もっていた事例が知られています。ほかにも、訓練データの偏りによる診断精度の差や、AIが媒介する情報環境などを通じて、同じ教育や所得でも、それが健康につながる度合いが変わります。AIを使うことの健康への影響も、人によって異なります。
蓄積(Accumulation):蓄積は3つ目の独立したメカニズムではなく、再分配と変換の影響を時間とともに増幅する働きです。AIが組織の業務や制度に組み込まれたり、人とAIのやり取りが繰り返されたりすることで、小さな初期差が固定化し、優位と不利が積み重なります。実験研究では、AIとのやり取りを通じて判断が偏っていくことに、本人がほとんど気づかないことも示されています。
方向は運命ではない
RTAの各メカニズムは、格差を広げる方向にも縮める方向にも働きえます。どちらに働くかは、次のような条件で決まります。
学習データが、利用する人々を代表しているか
言語・リテラシー・障害・通信環境の違いを越えて使えるか
不利な立場の人々に優先的に届けられるか
影響を受ける人が異議を申し立てられるか
導入後も、集団別の性能が監視されているか
分配影響評価(DIA)
こうした条件を点検するために、私たちはRTAの3つの視点にもとづく評価手法「分配影響評価(Distributional Impact Assessment: DIA)」を提案しています。既存のAI影響評価は、主に導入前・導入時の評価にとどまっています。EU AI法の基本権影響評価や、カナダのアルゴリズム影響評価などがその例です。健康への分配的な影響を継続して追うしくみは、まだありません。
DIAは、AIシステムについて次の3点を、導入前から導入後まで継続して点検します。
集団の間で、健康に関わる資源の配分を変えていないか(再分配)
社会的な立場が健康に結びつく仕方を変えていないか(変換)
フィードバックや制度への組み込みを通じて、不利を時間とともに集中させていないか(蓄積)
点検にあたって確認すべき指標、データ源、担当する主体、再評価のきっかけも整理しています。
私たちの研究
RTAフレームワークを軸に、全国データを用いた実証研究を進めています。生成AIの利用格差は再分配の、AIコンパニオンとウェルビーイングの研究は変換の検証にあたり、縦断データでは蓄積を追っています。あわせて、DIAの開発とガバナンスへの提言にも取り組んでいます。
論文:Nakagomi A. AI and the Reproduction of Health Inequity: Redistribution-Translation-Accumulation Framework. J Med Internet Res. 2026;28:e98158. https://www.jmir.org/2026/1/e98158
プレスリリース:
https://www.chiba-u.ac.jp/news/research-collab/ai_7.html
1万3千人の調査で判明:日本における生成AI利用率は21.3%。利用は若年・高学歴・高所得・デジタルリテラシーの高い層に偏在し、AI格差は「参入段階」から既に始まっている